フリーランスとして働く際、社会保険の仕組みや会社員との違い、必要な手続き・保険料などを正しく理解できているでしょうか。
本記事では、フリーランスが押さえておくべき社会保険の全体像や注意点、賢い制度活用方法までを具体的に解説。
これを読むことで「何から始めるか」「どんなリスクがあるか」「安心の備え方」がすべて分かります。
フリーランスと会社員の社会保険の違いについて
社会保険とは何か
社会保険とは、病気やケガ、老後、失業、介護などのリスクに備えて国や自治体が運営する公的な保険制度の総称です。
主な制度には、健康保険、年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険があります。
これらは大きく分けて「医療保険」「年金保険」「労働保険」に分類でき、誰もが一定の条件で加入することが義務づけられています。
日本における社会保険は、個人が万が一の時に最低限の生活を守るためのセーフティネットとして機能しており、安定した生活基盤を支える重要な役割を果たしています。
会社員が加入する社会保険の種類
会社員(いわゆるサラリーマンやOL)の場合、勤務先の企業を通じて「社会保険」に自動的に加入することになります。
会社員が加入する代表的な社会保険制度は次の通りです。
保険名 | 概要 |
---|---|
健康保険 | 病気やケガの際に医療費の一部が給付される保険。大企業は「組合健保」、中小企業は「協会けんぽ」に加入。 |
厚生年金保険 | 老齢・障害・死亡時に年金が支給される保険。将来の年金額が国民年金より多いのが特徴。 |
雇用保険 | 失業や育児休業、介護休業の際に、一定の給付が受けられる保険。 |
労災保険 | 業務中や通勤途中のケガや病気に対して補償される保険。 |
介護保険(40歳以上) | 介護が必要となった場合のサービス利用に備える保険。 |
これらの保険料は会社と従業員が折半で負担しており、手続きも会社がすべて代行します。
そのため個人の負担や手続きの手間が軽減されています。
フリーランスが対象となる社会保険の種類
フリーランス(自営業者や個人事業主)は会社の社会保険に加入できず、自分で公的な保険に加入する必要があります。
主に以下の社会保険制度が対象となります。
保険名 | 概要 |
---|---|
国民健康保険 | 市区町村が運営。医療費の一部給付に対応。全国どこでも原則加入可能。 |
国民年金 | 全国民が原則加入。老齢・障害・死亡時に年金が支給される。 |
介護保険(40歳以上) | 会社員同様、40歳を超えると加入義務あり。 |
労災保険(特別加入の場合) | 一部の職種・組合に限り、希望により加入可能。 |
フリーランスは自身で各種保険の手続きを行い、保険料も全額自己負担となります。
保険料や保障内容の違い
フリーランスと会社員の最大の違いは、保険料の負担方法と保障内容の範囲にあります。
具体的には、会社員は保険料が会社と折半であり、厚生年金や各種手当が充実していますが、フリーランスは全額自己負担でしかも保障範囲も限定的です。
区分 | 会社員 | フリーランス |
---|---|---|
医療保険 | 健康保険(会社が半額負担) 付加給付や出産手当金等の制度あり | 国民健康保険(全額自己負担) 出産手当金等なし |
年金 | 厚生年金(会社が半額負担) 将来的な年金額が多い | 国民年金(全額自己負担) 基本的に最低限の保障 |
失業保険 | 雇用保険でカバー | 原則、失業給付なし |
労災保険 | 原則全員加入 | 特定の組合等に加入すれば可能 |
保険料の納付方法 | 会社が給与天引きで手続き | 自分で市区町村に申請・支払 |
このように、フリーランスは社会保険の手続きや保険料負担、保障内容において会社員とは大きな違いがあるため、自身で必要な制度を正しく理解し、適切に加入手続きを進めることが重要です。
フリーランスが加入できる公的な社会保険制度

国民健康保険について
国民健康保険の概要と特徴
国民健康保険は、会社員が加入する健康保険(協会けんぽや組合健保)とは異なり、一般的に自営業者やフリーランス、無職の方などが加入する公的医療保険制度です。
仕事中・プライベート問わず医療を受けた際の医療費の自己負担を軽減し、病気やけがの際に医療費の7割までを公費でカバーします。
また、出産育児一時金や高額療養費制度なども利用できますが、会社員のような「傷病手当金」「出産手当金」の支給はありません。
加入者 | 給付内容 | 特徴 |
---|---|---|
フリーランス・自営業者・無職等 | 医療費の7割補助、出産育児一時金、高額療養費制度 | 傷病手当金なし、出産手当金なし |
保険料の計算方法
国民健康保険の保険料は、前年の所得や各自治体ごとに異なる算定方法で決定されます。
主に「所得割」「均等割」「平等割」などの合算で構成されており、世帯の人数や世帯主・加入者の所得が重要な要素となります。
保険料は毎年6月~3月にかけて年12回で納付するのが一般的です。
納付方法 | 算出要素 | 新規加入時の注意点 |
---|---|---|
年12回(原則毎月)、口座振替・納付書 | 前年の所得、世帯人数、自治体ごとの計算式 | 転職・独立時には速やかに届け出が必要 |
国民年金について
国民年金の概要と特徴
国民年金は、日本に住む20歳から60歳までのすべての人が原則として加入する基礎的な公的年金制度です。
フリーランスは「第1号被保険者」となり、自分で保険料を納付します。
老後の生活資金として老齢基礎年金を受給できるほか、障害を負った場合の障害基礎年金、万が一の場合には遺族基礎年金もあります。
段階 | 該当者 | 特徴 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 自営業・フリーランス・学生等 | 基本は本人が全額納付、割引や免除制度あり |
第2号被保険者 | 会社員・公務員 | 厚生年金に自動加入、保険料は労使折半 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者の配偶者 | 保険料は不要 |
付加年金や国民年金基金について
付加年金は国民年金の上乗せ制度のひとつで、月額400円追加で支払うことで将来の年金受給額が増えます。
また、国民年金基金は、フリーランスや自営業者が任意で加入できる年金制度であり、基礎年金に加えて将来の年金を増やせます。
国民年金基金は、掛金全額が所得控除の対象となるため、節税メリットもあります。
その他の社会保障制度
労災保険の特別加入
一般的に会社員が対象となる労災保険ですが、一人親方やフリーランスなど一部の業種では「特別加入」制度を利用すれば、業務中や通勤中の事故によるケガや病気に対して保障を受けることが可能です。
加入は労働保険事務組合を経由して手続きし、中小建設業や運送業、情報サービス業の一部など、該当業種が決まっています。
対象業種 | 主な給付内容 | 手続き先 |
---|---|---|
建設、運輸、情報サービス等の一部 | 療養、休業、障害、遺族への補償 | 労働保険事務組合 |
小規模企業共済やiDeCo(イデコ)
小規模企業共済は、中小企業経営者やフリーランスが自分自身の「退職金」を準備できる共済制度です。
掛金は全額所得控除の対象で、老後の備え・廃業時の保障を効率よく準備できます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)も自分で積み立てる年金制度であり、掛金全額所得控除と運用益非課税のメリットがあります。
始めるためには金融機関で口座開設し、月額5,000円から積立可能です。
フリーランスとして社会保険に加入する方法

市区町村窓口での手続き方法
フリーランスとして独立した場合、社会保険(国民健康保険・国民年金)への加入はお住まいの市区町村役場で手続きが必要です。
会社を退職してから14日以内に手続きを行う必要があり、遅れると未納期間が発生し将来の保障に影響します。
各市区町村の窓口で、必ず自分の住民票がある場所に出向いて申請してください。
手続きは窓口での直接申請が一般的ですが、多くの自治体が郵送や一部オンライン申請にも対応しています。
具体的な窓口の場所や受付時間、手続き方法は自治体によって異なるため、事前に公式ホームページで確認するとスムーズです。
必要書類と注意点
フリーランスとして社会保険に加入する場合、窓口での手続き時に必要な書類を準備しておくことで、手続きが円滑に進みます。
主な必要書類とポイントは以下のとおりです。
書類名 | 詳細・準備するポイント |
---|---|
本人確認書類 | 運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなど顔写真付きのもの |
マイナンバー確認書類 | マイナンバーカード、通知カード、マイナンバーが記載された住民票など |
離職票や退職証明書 | 前職を退職したばかりの場合は市区町村によって必要 |
印鑑 | 認印で問題ないが、自治体によっては不要な場合も |
健康保険資格喪失証明書 | 健康保険の任意継続や切り替え時に要確認 |
扶養家族の情報 | 家族のマイナンバーや住民票、本人確認書類など |
必要書類が不足していると手続きができないため、あらかじめ自治体へ確認したうえで準備しましょう。
また、年金については厚生年金から国民年金への変更手続も必要です。
加入後は保険料納付の方法や時期をしっかり把握し、未納にならないよう注意が必要です。
切り替え時にやるべきこと(会社員からフリーランスへの移行)
会社員からフリーランスへ転身する際は、社会保険の切り替えが必須となります。
退職後、まず勤務先から「健康保険資格喪失証明書」と「離職票または退職証明書」を受け取りましょう。
その後、速やかに以下の手続きを進めてください。
- 健康保険の切り替え:以下のいずれかを選択する必要があります。
- 国民健康保険に加入:市区町村窓口で手続きを行い、保険料納付書などを受け取ります。
- 健康保険の任意継続:原則、退職後20日以内に元の健康保険組合へ申請します。最長2年間、会社員時代の健康保険を継続可能ですが、保険料は全額自己負担となります。
- 年金の切り替え:会社員時代の厚生年金から、国民年金(第1号被保険者)へ変更が必要です。年金事務所や各市町村窓口で、必要書類とともに手続きをします。
- 扶養家族の加入情報の変更:健康保険・年金ともに、扶養していた家族がいる場合は同時に切り替え手続きが必要となります。
- 保険料の納付手続き方法の選択:振込用紙で毎月支払うか、口座振替やクレジットカード払い、電子マネー決済といった方法を選べます。支払い忘れを防ぐためにも自動引き落としの利用がおすすめです。
フリーランスになった直後は何かと忙しくなりがちですが、社会保険および年金の切り替え手続きを早めに進めてトラブルを防ぎましょう。
また、切り替え後には保険証や年金手帳、納付書などの受け取り・保管も忘れないよう注意が必要です。
フリーランスが社会保険に加入する際の注意点

保険料の負担増加リスク
フリーランスとして独立すると、会社員時代のように保険料が会社と折半でなく、全額自己負担になります。
特に健康保険と年金保険料については、所得に応じて計算されるため、収入が高くなると保険料負担も重くなります。
収入が安定しない場合でも、最低限の保険料は必ず支払う必要がありますので、年間で発生する保険料の総額をシミュレーションし、資金計画を立てておくことが重要です。
社会保険の種類 | 会社員 | フリーランス |
---|---|---|
健康保険 | 会社と本人が折半で負担 | 全額自己負担(国民健康保険) |
年金 | 厚生年金(会社と折半) | 国民年金(全額自己負担) |
健康保険の任意継続制度の活用
会社員からフリーランスに転身した直後は、健康保険組合の任意継続被保険者制度の利用も選択肢となります。
この制度を利用すれば、原則として最大2年間、退職前に加入していた健康保険を継続することができます。
しかし、任意継続中も保険料は全額自己負担となるため、国民健康保険と比較した上で選ぶ必要があります。
地域や所得によって、どちらの方が割安になるかが変わるため、事前に保険料を確認することが大切です。
区分 | 任意継続保険 | 国民健康保険 |
---|---|---|
保険料負担 | 全額自己負担(前年の標準報酬月額等で計算) | 全額自己負担(市区町村ごとに計算方式が異なる) |
期間 | 最長2年 | 制限なし |
扶養や配偶者控除への影響
フリーランスになると配偶者や子どもなどを健康保険の扶養に入れる条件が異なり、会社員時代より厳しくなることがあります。
フリーランスが加入する国民健康保険には「扶養」という概念がないため、家族一人ひとりが個別に保険料を支払う必要があります。
その結果、世帯全体の保険料総額が増える場合があります。
また、所得水準によっては配偶者控除の適用要件から外れてしまう可能性もあるため、配偶者の勤務状況や所得状況を事前によく確認し、税金面での不利益が生じないように注意しましょう。
社会保険以外のリスク対策とおすすめの民間保険

フリーランスは会社員と異なり、公的な社会保険のみでは守りきれないリスクが多いのが現実です。
万が一の病気やケガによる収入減少・医療費負担・老後資金不足などに備え、民間保険や各種団体のサービスも活用することが重要です。
民間医療保険・所得補償保険の必要性
国民健康保険・国民年金だけではカバーできないリスクが存在します。
たとえば、長期間の入院や療養によって仕事ができなくなった場合、会社員と違い傷病手当金がありません。
また、医療費の自己負担分や、収入減で生活が苦しくなる恐れもあります。
そこで、民間の医療保険や所得補償保険でリスクヘッジを図るのがおすすめです。
主な保険商品は次の通りです。
保険の種類 | 主な保障内容 | 特徴・注意点 |
---|---|---|
医療保険 | 入院・手術費の補填、先進医療特約など | 国民健康保険の自己負担分や高額療養費制度でカバーできない部分を補う。健康状態によっては加入できない場合も。 |
所得補償保険(就業不能保険) | 病気やケガで働けなくなった場合の収入補填 | 会社員にある「傷病手当金」に相当する役割。フリーランスには特におすすめ。 |
がん保険 | がん診断時の一時金、入院保障など | 診断一時金で治療に専念しやすい。働けなくなるリスクに備える意味でも有効。 |
生命保険 | 死亡保障、遺族年金の補完 | 遺族扶養や事業継続、不慮のリスクに備える。特に家族がいる場合は検討を。 |
民間保険加入はライフスタイルや家族構成、事業内容に合わせて慎重に選びましょう。
保険料は経費として計上できる場合もあるため、節税面でも活用の価値があります。
フリーランス協会などの団体保険の活用
個人事業主やフリーランス向けに、団体保険や福利厚生サービスを提供する協会・団体が増えています。
これらを活用することで、保険料の負担を抑えつつ、十分な保障を受けることが可能です。
団体名 | 利用できる主な保険・サービス | 特徴 |
---|---|---|
フリーランス協会 | 賠償責任保険/所得補償/就業不能補償/福利厚生(ベネフィットステーションなど) | 年会費6,000円程度で多彩な保険と福利厚生。フリーランスならではの業務上リスクもカバー。 |
日本イラストレーション協会ほか業種別団体 | 団体医療保険/団体障害保険/賠償責任保険 | 業種特性に合わせた保障。個人で加入するよりも割安な場合が多い。 |
商工会・商工会議所 | 中小企業向け共済/団体保険/顧問サービス | 節税効果や資金繰り対策も期待できる。 |
なお、団体保険は加入条件や保障内容が団体ごとに異なります。自分の職種・働き方に合った保障があるか、十分に比較検討して選択しましょう。
フリーランスとして安心して働き続けるためには、公的な社会保険制度に加え、民間保険や団体サービスを効果的に活用して総合的なリスク対策を行うことが不可欠です。
まとめ
フリーランスは会社員と異なり、自分で国民健康保険や国民年金への加入手続きが必要です。
保険料の全額負担や保障範囲にも違いがあり、任意継続や付加年金など制度の活用、民間保険やフリーランス協会の団体保険も検討することでリスクの備えが万全になります。
正しい知識と計画的な対策で安心して働き続けましょう。