【完全ガイド】マイクロ法人を2人で設立!夫婦・親子での始め方から節税メリットまで徹底解説

「マイクロ法人を夫婦や親子など2人で設立して、社会保険料や税金の負担を賢く減らしたい」と考えていませんか?
しかし、1人での設立と具体的に何が違うのか、役員報酬はいくらにすれば最も節税効果が高まるのか、手続きで失敗しないかなど、多くの疑問や不安がつきものです。

結論から言うと、2人でのマイクロ法人設立は、役員報酬の分散によって所得税や住民税を最適化し、社会保険料の負担をコントロールすることで、1人で設立するよりも大きな節税メリットを生み出す可能性を秘めています。

この記事では、2人でマイクロ法人を設立するメリット・デメリットから、夫婦・親子といった関係性別の注意点、具体的な設立手順、さらには節税効果を最大化する役員報酬のシミュレーションまで、あなたが知りたい情報を網羅的に解説します。

本記事を最後まで読めば、2人でのマイクロ法人設立に関する全ての疑問が解消され、自信を持って最適な一歩を踏み出せるようになります。

マイクロ法人を2人で設立するとは?基本を解説

「マイクロ法人を2人で設立する」という選択肢が、個人事業主やフリーランス、そして家族で事業を営む方々の間で注目を集めています。
特に、社会保険料の負担軽減や節税効果を期待して検討するケースが増えています。

この章では、そもそもマイクロ法人とは何か、そして2人で設立する場合の基本的な考え方や、1人での設立との違いについて、基礎から分かりやすく解説します。

そもそもマイクロ法人とは

マイクロ法人とは、法律で明確に定義された用語ではありません。

一般的に、社長1人、あるいは配偶者や親子といった家族だけで運営される、従業員のいない小規模な法人を指す言葉として使われています。

多くの場合、個人事業主がプライベートカンパニーとして設立し、社会保険料の最適化や税負担の軽減を主な目的とします。

個人事業主は所得が増えるほど国民健康保険料や国民年金保険料の負担が大きくなりますが、法人を設立して役員になれば、健康保険と厚生年金保険(社会保険)に加入できます。

マイクロ法人では、役員報酬を意図的に低く設定することで、この社会保険料の負担を最小限に抑えるスキームが広く知られています。

個人事業とマイクロ法人を両立させ、所得を分散させる「二刀流」という手法もその一つです。

2人でのマイクロ法人設立はこんな方におすすめ

2人でマイクロ法人を設立することは、1人では得られないメリットを享受できる可能性があります。

具体的には、以下のような方々におすすめです。

  • 夫婦で事業を営んでいる、または共同で始めたい方
    一方が個人事業主で、もう一方が事業を手伝っているようなケースです。2人で役員になることで、所得を分散し、世帯全体での手取り額を最大化できる可能性があります。
  • 親子で事業承継を考えている方
    親が経営する事業に子が関わっている場合、共同で役員となることでスムーズな事業承継の準備ができます。また、親子間での所得分散による節税も期待できます。
  • 信頼できるビジネスパートナーと共同で事業を立ち上げたい方
    友人や知人と共に起業する場合、それぞれのスキルや人脈を活かしながら、法人格を持つことで社会的信用を得やすくなります。リスクを分担できる点も大きなメリットです。

特に、個人事業である程度の所得があり、かつ配偶者や親子が事業に関わっている場合には、2人でのマイクロ法人設立は非常に有効な選択肢となり得ます。

1人での設立との違いはどこにあるのか

1人でマイクロ法人を設立する場合と、2人で設立する場合では、役員構成や意思決定のプロセス、そして節税効果の面で大きな違いが生まれます。

両者の特徴を比較してみましょう。

比較項目1人での設立2人での設立
役員構成代表取締役1名のみ代表取締役1名、取締役1名など、複数名で構成
役員報酬1人分のみ設定2人分に分散して設定可能
社会保険役員1名が加入役員2名が加入(扶養の考え方が重要になる)
意思決定迅速かつ自由に行える協議が必要となり、意見対立のリスクも発生
節税効果給与所得控除は1人分給与所得控除を2人分活用でき、所得分散による高い節税効果が期待できる
リスクすべての責任とリスクが1人に集中責任や事業上のリスクを2人で分担できる

最大の違いは、役員報酬を2人に分散できる点です。
これにより、1人あたりの所得を抑え、所得税や住民税の税率を低く保つことができます。
また、給与所得控除もそれぞれが適用できるため、世帯全体で見たときの節税効果は1人の場合よりも大きくなる傾向があります。

一方で、2人になることで経営に関する意思決定に時間がかかったり、万が一関係が悪化した場合にトラブルに発展したりするリスクも考慮しなければなりません。
これらのメリット・デメリットを正しく理解し、ご自身の状況に最適な形を選択することが重要です。

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マイクロ法人を2人で設立する5つのメリット

マイクロ法人を2人で設立・運営することは、1人での設立や個人事業主として活動する場合と比較して、多くの魅力的なメリットがあります。
特に、夫婦や親子といった信頼関係のあるパートナーと組むことで、節税効果を最大化し、事業のリスクを効果的に分散させることが可能です。

ここでは、2人でマイクロ法人を設立する際に得られる5つの主要なメリットを詳しく解説します。

社会保険料の負担を最適化できる

マイクロ法人を設立する最大のメリットの一つが、社会保険料の負担を最適化できる点です。

2人で設立することで、このメリットをさらに大きく享受できます。

個人事業主の場合、所得が増えれば増えるほど国民健康保険料も高額になります。
しかし、法人を設立して役員になると、役員報酬の額に応じて社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が決まります。
この仕組みを利用し、役員報酬を社会保険料が最低等級となる金額(月額63,000円未満など)に設定することで、社会保険料の負担を劇的に抑えることが可能です。

2人で役員になる場合、それぞれがこの仕組みを活用できます。

例えば、夫婦の一方が個人事業で主な収入を得ながら、もう一方と一緒に設立したマイクロ法人からそれぞれ最低限の役員報酬を受け取る形です。
これにより、世帯全体として高額な国民健康保険料の支払いを回避し、かつ2人とも手厚い保障が受けられる健康保険と、将来の年金受給額を増やせる厚生年金に加入できるという大きな利点があります。

役員報酬の分散で所得税と住民税を節税

日本の所得税は、所得が高いほど税率も高くなる「累進課税制度」が採用されています。
このため、1人に所得が集中すると高い税率が適用され、税負担が重くなります。

マイクロ法人を2人で設立し、それぞれが役員として報酬を受け取ることで、世帯全体の所得を2人に分散させ、それぞれの所得税率を低く抑えることができます
さらに、給与所得者には「給与所得控除」という税制上の優遇措置があり、役員報酬を2人で受け取ることで、この控除をそれぞれが適用できるため、課税対象となる所得をさらに圧縮できます。

例えば、世帯で年間800万円の役員報酬を得る場合を考えてみましょう。

パターン夫の役員報酬妻の役員報酬世帯全体の税負担
A: 1人に集中800万円0円高い
B: 2人に分散400万円400万円低い

上記のように、同じ800万円の所得でも2人に分散させることで、それぞれに低い税率が適用され、給与所得控除も2人分使えるため、結果として世帯全体の手取り額を最大化することにつながります。

経費として認められる範囲が広がる

法人化することで、個人事業主よりも経費として認められる範囲が格段に広がります。
これは、節税において非常に重要なポイントです。

具体的には、以下のような経費計上が可能になります。

  • 役員社宅:自宅を法人名義で借り上げ、役員に貸し出すことで家賃の大部分を経費にできます。
  • 出張手当(日当):出張の際に発生する食事代などの実費とは別に、規定に基づいて支給する手当です。受け取った役員にとっては非課税所得となり、法人は経費として計上できます。
  • 生命保険料:法人契約の生命保険に加入し、保険の種類によっては支払った保険料の全部または一部を損金(経費)に算入できます。
  • 退職金:役員退職慰労金を準備し、将来の退職時に支払うことで、法人にとっては損金となり、受け取る役員にとっても税制上優遇された退職所得として扱われます。

2人で役員を務めることで、これらのメリットを2人分活用できる場面が増えます

例えば、事業に関連する出張に2人で赴けばそれぞれに出張手当を支給できますし、将来的に退職金を2人分準備することも可能です。
これにより、より柔軟で効果的な節税対策を実行できます。

個人事業主より社会的信用度が高まる

法人格を持つことは、個人事業主と比較して社会的な信用度を大きく向上させます。
これは、金融機関からの融資、取引先との契約、人材採用など、事業のあらゆる側面で有利に働きます。

法人は法務局に登記されており、会社の目的、資本金、役員などの情報が公開されているため、透明性が高く、取引相手に安心感を与えます。
特に、大手企業との取引では、法人であることが契約の前提条件となるケースも少なくありません。

さらに、役員が2人いることで、事業の継続性や安定性に対する信頼がさらに高まるという効果も期待できます。

経営者が1人だけの場合、その人に万が一のことがあれば事業が停滞するリスクがありますが、パートナーがいれば事業を継続できる体制が整っていると見なされ、金融機関や取引先からの評価向上につながることがあります。

事業のリスクを2人で分担できる

事業経営には常にリスクが伴いますが、2人で運営することでこれらのリスクを効果的に分担・軽減できます。

まず、株式会社や合同会社は「有限責任」であり、会社の債務に対して出資額の範囲内でしか責任を負いません。
これは、事業の全責任を個人で負う個人事業主(無限責任)との大きな違いです。

それに加え、2人で経営にあたることには以下のようなメリットがあります。

  • 精神的・物理的負担の軽減:経営上の重要な判断や日々の業務を一人で抱え込まずに済みます。相談相手がいることで精神的なプレッシャーが和らぎ、業務を分担することで肉体的な負担も軽減されます。
  • 意思決定の質の向上:異なる視点や知識を持つ2人が議論を交わすことで、一人では気づかなかった問題点や新たなアイデアが生まれ、より客観的で精度の高い意思決定が可能になります。
  • 不測の事態への対応力:一方が病気や怪我などで一時的に業務から離れざるを得ない場合でも、もう一方が事業を継続できるため、事業停滞のリスクを最小限に抑えることができます。

このように、信頼できるパートナーと協力することで、精神的にも物理的にも安定した事業運営が可能になります。

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要注意!2人でマイクロ法人を設立するデメリットと対策

マイクロ法人を2人で設立することは、節税やリスク分散など多くのメリットがある一方で、見過ごせないデメリットや注意点も存在します。
特に親しい間柄である夫婦や親子だからこそ、事前にリスクを理解し、適切な対策を講じておくことが成功の鍵となります。

ここでは、具体的なデメリットとその対策を詳しく解説します。

法人設立と維持にコストがかかる

個人事業主と比べて、法人は設立時と事業を維持していくための両面でコストが発生します。
特に、利益が少ない時期でも必ずかかる費用がある点には注意が必要です。

設立時の費用としては、定款の認証手数料や登録免許税などがかかります。
これは選択する会社形態によって金額が異なります。

費用項目株式会社合同会社
定款用収入印紙代0円(電子定款の場合)
40,000円(紙定款の場合)
0円(電子定款の場合)
40,000円(紙定款の場合)
定款認証手数料30,000円~50,000円不要
登録免許税最低150,000円
(資本金の0.7%)
最低60,000円
(資本金の0.7%)
合計(電子定款の場合)約180,000円~約60,000円~

また、法人を維持していくためのコストとして、赤字であっても毎年支払う義務のある「法人住民税の均等割」(最低でも年間7万円程度)が発生します。
さらに、税務申告を税理士に依頼する場合はその顧問料、社会保険への加入義務による保険料負担なども考慮しなければなりません。

【対策】
設立費用を抑えたい場合は、登録免許税が安く、定款認証が不要な合同会社を選択するのが有効です。
また、電子定款を利用すれば収入印紙代の4万円を節約できます。
維持コストについては、クラウド会計ソフトを導入して自分で経理処理を行ったり、税理士への依頼を決算申告時のみに限定したりすることで、専門家への報酬を抑えることが可能です。

会計処理や事務手続きが複雑になる

個人事業主の青色申告と比較しても、法人の会計処理や事務手続きは格段に複雑になります。

2人体制になることで、さらに手続きが増える点も認識しておく必要があります。

具体的には、以下のような手続きが新たに発生します。

  • 複式簿記による厳密な会計帳簿の作成
  • 貸借対照表や損益計算書などの決算書の作成
  • 法人税、法人住民税、法人事業税の申告
  • 役員報酬からの源泉徴収と年末調整
  • 社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きと毎月の保険料納付

これらの手続きは専門的な知識を要し、もし手続きに漏れや誤りがあると、追徴課税などのペナルティを受けるリスクがあります。

【対策】
会計や税務の知識に不安がある場合は、無理せず専門家の力を借りるのが賢明です。
「マネーフォワード クラウド」や「freee会計」といったクラウド会計ソフトを導入すれば、日々の取引入力や決算書作成の手間を大幅に削減できます。
また、社会保険に関する手続きは社会保険労務士、税務申告は税理士というように、必要な部分だけを専門家に依頼することも有効な対策です。

役員間の意見対立やトラブルのリスク

夫婦や親子など、親しい間柄で事業を始める場合でも、経営に関する意見の対立は起こり得ます。
特に、金銭が絡む問題は関係性を悪化させる大きな原因となりかねません。

例えば、以下のような点で意見が食い違う可能性があります。

  • 事業の方向性や将来のビジョン
  • 役員報酬の金額や配分
  • 利益の使い道(再投資か、役員への分配か)
  • 業務の分担や責任の所在
  • どちらか一方が事業から離脱する場合の条件

口約束だけで事業を始めてしまうと、後々「言った・言わない」のトラブルに発展しがちです。

事業だけでなく、家族関係にまで亀裂が入る事態は避けなければなりません。

【対策】
最も重要な対策は、法人を設立する段階で、2人の間のルールを明確に文書化しておくことです。
具体的には、会社の憲法ともいえる「定款」に、役員それぞれの権限や役割、役員報酬の決定方法、利益の配分ルールなどを詳細に定めておきましょう。
また、万が一の事態に備え、株式の譲渡制限や役員の退任に関する規定を盛り込んでおくことも重要です。
定期的に経営状況について話し合う場を設け、オープンなコミュニケーションを心がけることも、不要なトラブルを避けるために不可欠です。

社会保険の扶養から外れる場合の注意点

2人でマイクロ法人を設立する際に、最も注意すべき点の一つが社会保険の扶養の問題です。

例えば、これまで配偶者(会社員など)の社会保険の扶養に入っていた方がマイクロ法人の役員になると、原則としてその扶養から外れなければなりません。

法人の役員は、たとえ役員報酬が少額であっても、常勤であれば社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。
これにより、これまで負担のなかった社会保険料(個人負担分と会社負担分の両方)が新たに発生します。

国民健康保険と国民年金に加入する場合と比較しても、負担が大きく変わる可能性があります。

扶養から外れることで、世帯全体の手取り収入が減少してしまうケースも少なくありません。

法人化による節税メリットよりも、社会保険料の負担増が上回ってしまう「保険料負け」の状態に陥らないよう、慎重な検討が必要です。

【対策】
対策として、法人を設立する前に、役員報酬をいくらに設定すれば社会保険料がどのくらい発生するのかを必ずシミュレーションしましょう。
扶養から外れることによる保険料負担と、法人化によって得られる節税額を比較検討し、トータルでメリットがあるかどうかを判断することが重要です。
役員報酬の金額によっては、国民健康保険に加入した方が有利な場合もあります。
判断が難しい場合は、社会保険労務士や税理士などの専門家に相談し、最適な役員報酬のバランスについてアドバイスを求めることを強くおすすめします。

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【関係性別】夫婦や親子2人でのマイクロ法人設立ポイント

マイクロ法人を2人で設立する場合、その関係性が夫婦なのか、親子なのかによって、特に注意すべきポイントが異なります。

節税効果を最大化し、将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、それぞれの関係性特有のメリットや注意点を深く理解しておくことが成功のカギとなります。

ここでは、最も一般的な「夫婦」と「親子」のケースに分けて、設立時の具体的なポイントを詳しく解説します。

夫婦でマイクロ法人を設立する場合

夫婦で事業を行う場合、マイクロ法人の設立は非常に有効な選択肢です。

日常的にコミュニケーションが取りやすく、お互いの強みを活かした事業運営がしやすいというメリットがあります。
しかし、税金や社会保険の面では、個人事業主の青色事業専従者給与とは異なる、法人特有の注意点が存在します。

最適な役員報酬のバランス

夫婦2人を役員とする最大のメリットは、役員報酬の分散による節税効果です。所得税は累進課税のため、1人に高額な報酬を集中させるよりも、2人に分散させた方が世帯全体での税負担を軽減できます。

役員報酬を決定する上で最も重要なのが、社会保険料とのバランスです。夫婦それぞれが役員として社会保険に加入する場合、世帯としての社会保険料負担は大きくなる可能性があります。
そのため、以下のような戦略が考えられます。

  • 片方の役員報酬を低く抑える戦略:主な生計者である一方の役員報酬を高く設定し、もう一方の配偶者の役員報酬を社会保険料が最も低い等級になる金額(標準報酬月額の最低等級)に設定します。これにより、社会保険料の負担を抑えつつ、所得分散による節税メリットも享受できます。
  • 業務実態の確保:役員報酬は、その役員の職務内容や貢献度に見合った金額でなければ、税務調査で否認される(損金として認められない)リスクがあります。名目だけの役員に報酬を支払うことはできません。夫婦それぞれが担当する業務内容を明確にし、議事録や業務日報などで勤務実態を客観的に示せるようにしておくことが重要です。

どの報酬バランスが最適かは、事業の利益や個人の所得状況によって異なります。
税理士などの専門家と相談しながら、複数のパターンでシミュレーションを行い、世帯手取り額が最大になるポイントを見つけることをお勧めします。

配偶者の扶養に関する注意点

夫婦でマイクロ法人を設立する際、多くの方が混同しがちなのが「社会保険上の扶養」と「税法上の扶養」です。
この2つは全く別の制度であり、それぞれ条件が異なります。

マイクロ法人の役員になると、原則として配偶者の社会保険の扶養から外れます。
これは、たとえ役員報酬が扶養の基準とされる年収130万円未満であっても、法人の代表者や常勤役員は健康保険・厚生年金保険の被保険者となる義務があるためです。
例外的に、業務実態が「非常勤」であると認められれば加入義務がない場合もありますが、その判断基準は厳格であり、年金事務所による実態調査で判断されるため、安易な自己判断は禁物です。

一方で、税法上の扶養(配偶者控除・配偶者特別控除)は、配偶者の給与収入(役員報酬)が一定額以下であれば適用を受けられます。
両者の違いを正しく理解しておくことが重要です。

種類制度概要マイクロ法人役員になった場合
社会保険上の扶養健康保険料や国民年金保険料の負担なく、保険給付を受けられる制度。
一般的に年収130万円未満が目安。
原則として扶養から外れる。
役員として自身の法人で健康保険・厚生年金保険に加入する必要がある。
税法上の扶養納税者本人の所得税・住民税が軽減される制度(配偶者控除・配偶者特別控除)。配偶者の役員報酬額に応じて適用可否が決まる。
例えば、役員報酬が年間103万円以下なら配偶者控除の対象となる可能性がある。

親子でマイクロ法人を設立する場合

親子での法人設立は、単なる節税だけでなく、将来の事業承継を円滑に進めるための有効な手段となり得ます。

親が持つ経験や人脈と、子が持つ新しい視点や活力を組み合わせることで、事業の持続的な成長が期待できます。
ただし、親子という近い関係性だからこそ、税務上のルールを厳格に守る必要があります。

事業承継を視野に入れた役員構成

将来的に子が事業を引き継ぐことを想定している場合、設立時の役員構成や株式の保有割合が極めて重要になります。

  • 役員の役割分担と経験の移転:設立当初は親が代表取締役、子が取締役として経営に参画し、OJT(On-the-Job Training)形式で経営ノウハウを学んでいくのが一般的です。子が徐々に責任ある業務を担い、取引先や金融機関との関係を構築していくことで、スムーズな代表権の移譲が可能になります。
  • 株式(出資持分)の設計:株式会社の場合、議決権の根幹である株式を誰がどれだけ保有するかが経営の支配権を決めます。将来、子が事業を完全に引き継ぐのであれば、設立時から子が過半数の株式を保有する、あるいは計画的な贈与(暦年贈与など)によって段階的に株式を移していくといった長期的なプランが必要です。資本政策を誤ると、将来の事業承継時に多額の税金が発生したり、経営権を巡るトラブルに発展したりする可能性があります。

親子間の資金移動に関する税務上の注意

親子間では、プライベートな資金の貸し借りが気軽に行われがちですが、法人を介する場合は税務上、非常に厳格なルールが適用されます。

親子間であっても、法人と個人の間での不明瞭な資金移動は「贈与」とみなされ、思わぬ贈与税が課されるリスクがあります。
例えば、親が会社の運転資金として無利子で資金を貸し付けた場合、本来支払うべき利息分が子(会社)への贈与と認定される可能性があります。

このような事態を避けるため、親子間で会社にお金を貸し借りする際は、以下の点を徹底してください。

  • 金銭消費貸借契約書の作成:貸付額、返済期間、利率などを明記した正式な契約書を作成し、保管します。
  • 適正な利率の設定と利息の授受:親族間であっても、第三者から借りる場合と同等の利率を設定し、実際に利息の支払いを行う必要があります。
  • 役員報酬として支給する:個人的な資金援助ではなく、子の働きに対する対価として、必ず「役員報酬」という形で会社の経費として処理し、支給します。

親子という関係性に甘えず、あくまで「法人」と「個人」という別の人格として、客観的な証拠が残る形で取引を行うことが、税務リスクを回避する上で不可欠です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

実践!マイクロ法人を2人で設立する具体的な手順

マイクロ法人の設立は、一見すると複雑に感じるかもしれませんが、手順を一つひとつ理解して進めれば、ご自身たちでも十分可能です。

この章では、夫婦や親子など2人でマイクロ法人を設立するための具体的な6つのステップを、初心者の方にも分かりやすく解説します。

専門家に依頼する前に、まずは全体像を把握しましょう。

ステップ1 会社形態の選択(株式会社か合同会社か)

法人設立の最初のステップは、会社の形態を決めることです。

マイクロ法人では、主に「株式会社」と「合同会社」の2つが選択肢となります。

それぞれに特徴があり、2人の関係性や事業の将来像によって最適な形態は異なります。

まずは両者の違いを比較してみましょう。

項目株式会社合同会社
設立費用(法定費用)約20万円〜(定款認証5万円、登録免許税15万円〜)約6万円〜(登録免許税6万円〜)
社会的信用度高い株式会社に比べるとやや低い傾向
意思決定株主総会(出資比率に応じて議決権)原則として社員全員の同意(定款で変更可能)
役員の名称取締役など業務執行社員
役員の任期あり(最長10年、再任手続きが必要)なし
利益の配分出資比率(株式の保有割合)に応じて配当定款で自由に決められる
定款認証必要(公証役場)不要

夫婦や親子など、信頼関係のある2人でマイクロ法人を始める場合、設立・維持コストが低く、運営の自由度が高い「合同会社」がおすすめです。

利益の配分を出資比率に関係なく貢献度に応じて決められる点も、2人での運営に適しています。

一方、将来的に外部からの資金調達や事業拡大を視野に入れている場合は、社会的信用度の高い「株式会社」を選択すると良いでしょう。

ステップ2 会社の基本事項の決定

会社形態が決まったら、次に法人の骨格となる基本事項を2人で話し合って決定します。
これらは定款に記載する重要な内容であり、後の登記申請にも必要となります。

  • 商号(会社名)
    会社の顔となる名前です。使える文字(ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットなど)や記号にはルールがあります。また、同一の住所に同じ商号の会社は登記できません。法務局のオンラインサービスで類似商号がないか事前に調査しておきましょう。
  • 事業目的
    どのような事業を行うのかを具体的に記載します。現在は行っていなくても、将来的に展開する可能性のある事業も記載しておくと、後で定款を変更する手間と費用を省けます。許認可が必要な事業(建設業、飲食業など)を行う場合は、その要件を満たす文言を正確に記載する必要があります。
  • 本店所在地
    会社の住所を決めます。自宅や賃貸オフィス、バーチャルオフィスなどが選択肢となります。賃貸物件を本店所在地にする場合は、契約で事業利用が禁止されていないか必ず確認してください。
  • 資本金
    会社設立時の元手となる資金です。法律上は1円から設立可能ですが、あまりに少額だと会社の信用力に影響する可能性があります。一般的には10万円〜100万円程度で設定するケースが多いです。2人で出資する場合、誰がいくら出資したのかを明確にし、その出資比率が会社の所有権や議決権にどう影響するかを事前に確認しておくことが重要です。
  • 役員構成
    2人がそれぞれどのような役職に就くかを決めます。株式会社であれば「代表取締役」と「取締役」、合同会社であれば「代表社員」と「業務執行社員」といった形です。2人とも役員になるのか、1人が役員で、もう1人は従業員とするのかによって、社会保険の加入手続きや責任の範囲が変わってきます。
  • 事業年度(決算期)
    会社の会計期間を決定します。日本の多くの企業は4月1日から翌年3月31日ですが、自由に設定できます。繁忙期を避けたり、設立日からなるべく遠い月を決算月に設定して消費税の免税期間を最大限活用したりするなど、戦略的に決めましょう。

ステップ3 定款の作成と認証

基本事項が決まったら、それらを基に「定款(ていかん)」を作成します。

定款は「会社の憲法」とも呼ばれる最も重要なルールブックです。

定款には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」(商号、事業目的、本店所在地など)の他に、任意で定められる項目もあります。

2人で設立する場合は、役員報酬の決定方法、利益の配分割合、役員の権限など、運営に関するルールをできるだけ具体的に定款に盛り込んでおくことで、将来的な意見の対立やトラブルを防ぐことができます。

作成した定款は、会社形態によって手続きが異なります。

  • 株式会社の場合:公証役場で「定款認証」という手続きを受ける必要があります。認証には約5万円の手数料がかかります。
  • 合同会社の場合:公証役場での認証は不要です。作成した定款をそのまま保管します。

なお、紙の定款には4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款を作成して電子署名を行えば、この印紙代は不要になります。

設立費用を抑えたい場合は、電子定款の利用を検討しましょう。

ステップ4 資本金の払い込み

定款の作成(株式会社の場合は認証)が終わったら、定めた資本金を実際に払い込みます。
この時点ではまだ法人口座は作れないため、以下の手順で進めます。

  1. 発起人(出資者)の代表者個人の銀行口座を用意します。
  2. 2人がそれぞれ出資する金額を、その口座に振り込みます。(口座名義人が出資する場合は、預け入れでも構いません)
  3. 通帳の「表紙」「支店名や口座番号が記載されたページ」「振り込みが記帳されたページ」の3点をコピーします。
  4. これらのコピーをまとめて「払込証明書」という書類を作成し、会社の実印を押印します。

誰がいくら払い込んだのかが客観的にわかるように、必ず「振込」の形で記録を残すことが重要です。
この払込証明書は、次の登記申請で必要となる大切な書類です。

ステップ5 法務局への登記申請

いよいよ、会社を法的に設立するための最終ステップです。

本店所在地を管轄する法務局に、設立登記の申請書類を提出します。
この登記申請日が、会社の設立日となります。

申請に必要な主な書類は以下の通りです。会社形態によって若干異なります。

  • 設立登記申請書
  • 定款
  • 役員の就任承諾書
  • 発起人(出資者)全員の印鑑証明書
  • 払込証明書
  • 印鑑届書(会社実印の登録)
  • 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付)

登記申請には、登録免許税という税金がかかります。

金額は資本金の額によって決まりますが、最低額は以下の通りです。

  • 株式会社:15万円
  • 合同会社:6万円

書類に不備がなければ、申請から1週間〜10日ほどで登記が完了し、会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や印鑑証明書が取得できるようになります。
これらは法人口座の開設や各種契約に必要となります。

ステップ6 設立後に必要な税務署や年金事務所への届出

法務局への登記が完了しても、手続きは終わりではありません。

事業を開始するためには、税務や社会保険に関する届出を各行政機関に行う必要があります。

提出先と主な届出書類は以下の通りです。

提出期限が短いものもあるため、設立後速やかに行いましょう。

提出先主な届出書類提出期限の目安
税務署法人設立届出書
青色申告の承認申請書
給与支払事務所等の開設届出書
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
設立後2ヶ月以内
設立後3ヶ月以内 or 第1期事業年度終了日のいずれか早い方
開設後1ヶ月以内
適用を受けたい月の前月末まで
都道府県税事務所
市区町村役場
法人設立届出書自治体により異なる(設立後15日〜2ヶ月以内など)
年金事務所健康保険・厚生年金保険 新規適用届
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
設立(事実発生)から5日以内
労働基準監督署
(従業員を雇用した場合)
労働保険関係成立届保険関係成立の翌日から10日以内
ハローワーク
(従業員を雇用した場合)
雇用保険適用事業所設置届
雇用保険被保険者資格取得届
設置の翌日から10日以内
資格取得の翌月10日まで

特に「青色申告の承認申請書」は、提出を忘れると欠損金の繰越控除など税制上の大きなメリットを受けられなくなるため、絶対に忘れてはいけません。
また、2人とも役員として報酬を受け取る場合は、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務となりますので、年金事務所への手続きも必須です。
これらの届出を漏れなく完了させて、いよいよ2人でのマイクロ法人としての事業が本格的にスタートします。

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2人のマイクロ法人における役員報酬と社会保険料シミュレーション

マイクロ法人を2人で設立する最大のメリットは、役員報酬の設計次第で社会保険料や税金の負担を最適化できる点にあります。
しかし、「具体的にいくらに設定すれば、どれくらいの効果があるのか」が分からなければ、行動に移しにくいでしょう。

この章では、節税効果を最大化するための役員報酬の決め方のポイントを解説し、具体的なモデルケースを用いたシミュレーションで、その効果を分かりやすく可視化します。

※本シミュレーションは、特定の条件下での試算です。実際の保険料や税額は、お住まいの地域、年齢、所得、家族構成、加入する健康保険組合などによって変動します。必ず税理士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

節税効果を最大化する役員報酬の決め方

2人マイクロ法人の節税効果を最大限に引き出すためには、闇雲に役員報酬を決めるのではなく、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
特に「社会保険料」と「所得税・住民税」の2つの観点から、最適なバランスを見つけることが鍵となります。

ポイント1:社会保険料の「標準報酬月額」を意識する

健康保険料や厚生年金保険料は、毎月の給与そのものではなく、「標準報酬月額」という区分(等級)に基づいて計算されます。
この等級の境目を意識して役員報酬を設定することが、社会保険料を抑えるための基本戦略です。

例えば、東京都の協会けんぽの場合、報酬月額が63,000円未満であれば、健康保険の標準報酬月額は最低等級の58,000円となります。
2人の役員報酬をそれぞれこの最低等級の範囲内に設定することで、法人全体で支払う社会保険料を劇的に抑えることが可能です。
厚生年金保険料の標準報酬月額は最低でも88,000円で計算される点には注意が必要ですが、それでも高額な報酬を1人に集中させるよりはるかに有利になります。

ポイント2:所得税・住民税の「所得分散効果」を狙う

所得税は、所得が高くなるほど税率が上がる「累進課税制度」が採用されています。
例えば、1人で年間600万円の役員報酬を受け取るよりも、2人で300万円ずつに分散させた方が、それぞれに適用される税率が低くなり、合計の所得税額を抑えることができます。

また、給与所得者には「給与所得控除」という、いわば経費のような控除が認められています。
役員報酬を2人に分散させることで、この給与所得控除を2人分活用できるため、課税対象となる所得を効率的に圧縮できるのです。
基礎控除もそれぞれに適用されるため、所得分散は税負担の軽減に非常に効果的です。

ポイント3:法人利益と役員報酬のバランスを考える

役員報酬は法人の経費(損金)として計上できます。役員報酬を多く支払えば法人の利益は減り、法人税の負担は軽くなりますが、その分個人の所得税・住民税・社会保険料の負担が増加します。
逆に、役員報酬を低く抑えすぎると、個人の負担は減りますが、法人に利益が残り、法人税の負担が重くなります。

2人マイクロ法人では、このバランスを考慮し、法人税率と個人の所得税・住民税・社会保険料の合計負担が最も少なくなるスイートスポットを探ることが重要です。
事業で得た利益を、どのくらい役員報酬として個人に移し、どのくらい法人に残すのかを戦略的に決定しましょう。

モデルケースで見る社会保険料の比較

それでは、実際にモデルケースを用いて、役員報酬の設定によって社会保険料の負担がどれだけ変わるのかを見ていきましょう。

シミュレーションの前提条件

  • 法人形態:合同会社
  • 役員:夫婦2名(ともに40歳未満・介護保険第2号被保険者ではない)
  • 所在地:東京都
  • 健康保険:協会けんぽ(令和6年度の保険料率を適用)
  • 事業利益(役員報酬支払前):年間300万円

比較する2つのパターン

  • パターン1:夫1人に役員報酬を集中(月額25万円)
  • パターン2:夫婦2人に役員報酬を分散(それぞれ月額6万円)

この2つのパターンで、法人と個人が負担する年間の社会保険料(健康保険料+厚生年金保険料)の合計額を比較します。

項目パターン1:夫1人に集中(月額25万円)パターン2:夫婦2人に分散(各月額6万円)
役員報酬(年間合計)300万円144万円
標準報酬月額(健康保険)260,000円各58,000円
標準報酬月額(厚生年金)260,000円各88,000円
健康保険料(年間合計)約311,000円約139,000円
厚生年金保険料(年間合計)約571,000円約386,000円
社会保険料(年間合計)約882,000円約525,000円
年間の削減効果パターン2はパターン1に比べ、年間で約357,000円の社会保険料を削減!

シミュレーション結果の解説

上記の表から分かる通り、同じ事業利益から役員報酬を支払う場合でも、その設定方法を変えるだけで、年間の社会保険料負担に約35万円以上もの大きな差が生まれます

パターン1のように1人に報酬を集中させると、標準報酬月額が高くなり、それに伴って社会保険料も高額になります。
一方、パターン2のように2人に報酬を分散させ、それぞれを社会保険料の最低等級の範囲内に収めることで、法人と個人の合計負担額を大幅に圧縮できるのです。
これが、2人でマイクロ法人を設立する最大のメリットと言えるでしょう。

パターン2では、役員報酬として支払われなかった156万円(300万円 – 144万円)は法人の利益として残ります。
この利益に対して法人税がかかりますが、中小企業の低い法人税率を考慮すれば、社会保険料の削減メリットの方がはるかに大きくなるケースがほとんどです。
このように、個人の手取りだけでなく、法人に残るお金も含めた「世帯全体でのキャッシュフローの最大化」を目指すことが、2人マイクロ法人の成功の秘訣です。

まとめ

本記事では、夫婦や親子など2人でマイクロ法人を設立する方法、メリット・デメリット、具体的な手順について網羅的に解説しました。

結論として、2人でマイクロ法人を設立することは、社会保険料の負担を最適化し、役員報酬を分散させることで所得税や住民税を効果的に節税するための非常に有効な選択肢です。

個人事業主として活動するよりも経費として認められる範囲が広がり、社会的信用度が高まるという利点もあります。

一方で、法人設立・維持にはコストがかかり、会計処理などの事務手続きも複雑になります。
また、2人だからこそ起こりうる意見の対立や、社会保険の扶養に関する問題など、事前に検討すべき注意点も存在します。

2人でのマイクロ法人設立を成功させるためには、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、お互いの役割分担や役員報酬のバランスについて事前にしっかりと話し合うことが不可欠です。

本記事で紹介した設立手順やシミュレーションを参考に、ご自身の状況に最適な形を検討し、必要であれば税理士などの専門家にも相談しながら準備を進めていきましょう。

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