個人事業主必見!マイクロ法人(株式会社)の作り方と年収の壁を乗り越える方法

個人事業主として事業が軌道に乗り、年収が増えるほど重くなる税金や社会保険料の負担に悩んでいませんか?
その強力な解決策が「マイクロ法人」の設立です。

本記事では、マイクロ法人の中でも社会的信用度が高く、将来の事業拡大にも有利な「株式会社」に焦点を当て、設立による節税と社会保険料最適化の仕組みを徹底解説します。

具体的な設立手順7ステップから、知っておくべきメリット・デメリット、そして最適な役員報酬設定まで網羅。

結論として、課税所得が一定額を超える方にとって、個人事業主とマイクロ法人を両立する「二刀流」が手取りを最大化する最適な戦略です。

この記事を読めば、あなたが今すぐ法人化すべきか、そして「年収の壁」を賢く乗り越えるための具体的な方法がすべてわかります。

マイクロ法人とは?個人事業主が株式会社を設立するメリット

個人事業主として事業が軌道に乗り、売上や所得が増えてくると「税金や社会保険料の負担が大きい」と感じる方は少なくありません。
その解決策として注目されているのが「マイクロ法人」の設立です。

この章では、マイクロ法人とは何か、そしてなぜ法人形態として株式会社がおすすめなのか、そのメリットを分かりやすく解説します。

そもそもマイクロ法人とは何か

「マイクロ法人」という言葉は、法律で定められた正式な用語ではありません。

一般的に、社長一人、または配偶者や親族といった身内だけで運営される、従業員のいない小規模な会社のことを指す言葉として使われています。
特に、個人事業主がプライベートカンパニーを設立し、節税や社会保険料の最適化を図る戦略として広く知られています。

多くの個人事業主が、事業規模の拡大に伴い「法人成り」を検討します。

マイクロ法人は、その法人成りの一つの形態であり、個人事業主としての活動を続けながら、新たに設立した法人と事業を分ける「二刀流」で活用されることが多いのが特徴です。
この仕組みをうまく利用することで、税金や社会保険料の負担を劇的に軽減できる可能性があります。

なぜ法人形態は株式会社がおすすめなのか

法人を設立する際、主な選択肢として「株式会社」と「合同会社」があります。

どちらも1名から設立可能ですが、マイクロ法人を設立する上では、いくつかの理由から株式会社がおすすめです。

株式会社は、その知名度と信頼性の高さが最大の強みです。

金融機関からの融資審査や、大手企業との取引において、合同会社よりも有利に働くケースが少なくありません

将来的に事業を拡大し、外部からの資金調達を検討している場合、株式発行による増資が可能な株式会社の方が柔軟な対応ができます。

「株式会社」という肩書は、名刺やウェブサイトに記載するだけでも、顧客や取引先に安心感と信頼感を与える効果が期待できるでしょう。

合同会社との違いを比較

株式会社と合同会社には、設立費用や運営面でいくつかの違いがあります。
どちらが自身の事業に適しているか判断するために、以下の比較表を参考にしてください。

項目株式会社合同会社
設立費用(目安)約20万円~25万円(定款認証手数料、登録免許税など)約6万円~10万円(登録免許税など)
社会的信用度高い傾向にある株式会社に比べると低いと見なされることがある
意思決定機関株主総会原則として社員全員の同意(定款で別段の定めも可能)
利益の配分出資比率(株式の保有割合)に応じて配当定款で自由に決定可能(出資比率と無関係に設定できる)
役員の任期原則2年(非公開会社は最長10年まで伸長可能)任期なし
資金調達の方法株式発行による出資、融資、社債発行など多様融資、社員の追加出資が中心

設立費用は合同会社の方が安価ですが、マイクロ法人設立の目的が節税や社会保険料の最適化であることを考えると、長期的な視点での社会的信用度や事業拡大の可能性を重視し、株式会社を選択するメリットは大きいと言えます。

マイクロ法人設立による節税の仕組み

マイクロ法人を設立する最大のメリットの一つが節税です。
この節税の仕組みは、個人事業主に課される「所得税」と法人に課される「法人税」の税率構造の違いを利用したものです。

個人事業主の所得税は、所得が増えれば増えるほど税率も高くなる「累進課税」が採用されており、税率は5%から最大45%まで段階的に上がります。

一方、法人税の税率は基本的に一定です(資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円以下の部分には軽減税率が適用されます)。

そこで、個人事業主としての所得と、マイクロ法人から受け取る役員報酬に所得を分散させることで、それぞれに低い税率が適用され、トータルでの手取り額を増やすことが可能になります。
さらに、法人から受け取る役員報酬は「給与所得」扱いとなるため、経費として認められる「給与所得控除」が適用されます。
これにより、同じ収入額でも課税対象となる所得を圧縮でき、所得税・住民税の負担を軽減できるのです。

社会保険料を最適化できる理由

節税と並んで、マイクロ法人設立の大きなメリットが「社会保険料の最適化」です。

個人事業主が加入する国民健康保険料は、前年の所得に基づいて算出されるため、所得が増えると保険料も高額になりがちです。

一方、法人を設立すると、社長は役員として健康保険(協会けんぽなど)と厚生年金に加入する義務が生じます。

法人の社会保険料は、毎月の役員報酬の金額(標準報酬月額)を基準に決定されます。
この仕組みを利用し、マイクロ法人から受け取る役員報酬を意図的に低く設定することで、社会保険料の負担を最小限に抑えることができます。

例えば、役員報酬を社会保険料が低額になる水準(月額4.5万円など)に設定し、生活に必要な資金は個人事業の所得から得るといった形をとります。
これにより、個人事業主として高い所得を得ていても、社会保険料は法人の低い役員報酬に基づいた金額だけで済むため、年間で数十万円単位の負担軽減につながるケースも珍しくありません。
これが、マイクロ法人が社会保険料の壁を乗り越えるための強力な一手となる理由です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

マイクロ法人(株式会社)設立のメリットとデメリットを徹底解説

マイクロ法人の設立は、個人事業主が事業を拡大し、手取りを最大化するための強力な選択肢です。
しかし、その恩恵を最大限に受けるためには、メリットだけでなくデメリットも正確に理解し、ご自身の事業状況と照らし合わせて慎重に判断することが不可欠です。

ここでは、株式会社形態のマイクロ法人を設立する際に得られる具体的なメリットと、事前に知っておくべき注意点を詳しく解説します。

マイクロ法人の5つのメリット

マイクロ法人を設立する最大の動機は、多くの場合「節税」と「社会保険料の最適化」にあります。

個人事業主のままでは越えられない「税金と社会保険料の壁」を、法人という仕組みを活用することで乗り越えることが可能になります。
その他にも、事業運営上有利に働く様々なメリットが存在します。

メリット1 所得税と法人税の税率差による節税

個人事業主の所得にかかる「所得税」は、所得が増えるほど税率も高くなる「超過累進課税」が採用されています。

所得が900万円を超えると税率は33%、1,800万円を超えると40%と段階的に上がり、住民税と合わせると最大で55%にも達します。

一方、法人にかかる「法人税」の税率は、資本金1億円以下の中小法人の場合、所得が年800万円以下の部分には軽減税率が適用され、それを超える部分も一定の税率です。
この個人と法人の税率構造の違いを利用することで、大きな節税効果が生まれます

具体的には、個人事業で得た所得の一部をマイクロ法人に移し、法人から役員報酬として受け取ることで所得を分散させます。
これにより、個人に適用される高い所得税率を回避し、比較的低い法人税率の恩恵を受けることができるのです。

結果として、個人と法人を合わせたトータルの納税額を大幅に圧縮できます。

課税対象課税所得金額税率
個人(所得税)695万円超 900万円以下23%
900万円超 1,800万円以下33%
1,800万円超 4,000万円以下40%
法人(法人税)
※中小法人の場合
年800万円以下の部分15%
年800万円超の部分23.2%

※上記は国税のみの税率です。実際には住民税や事業税などが加わります。

メリット2 役員報酬で給与所得控除が使える

個人事業主の場合、収入から経費を差し引いたものが所得となりますが、経費にできる範囲には限りがあります。
しかし、法人を設立して自分自身に役員報酬を支払うと、その役員報酬は法人の経費(損金)として計上できます。

さらに重要なのは、受け取った役員報酬(給与所得)には「給与所得控除」が適用される点です。
給与所得控除は、サラリーマンの必要経費とも言えるもので、実際の経費を使ったかどうかに関わらず、収入額に応じて一定額を所得から自動的に差し引くことができます
これは個人事業主の青色申告特別控除(最大65万円)とは別枠で利用できる、非常に強力な控除制度です。

例えば、年間の役員報酬が500万円の場合、給与所得控除額は144万円(収入金額×20%+44万円)にもなります。
この控除額分だけ課税対象となる所得を減らせるため、所得税・住民税の負担を大きく軽減できるのです。

メリット3 社会保険料の負担をコントロールできる

フリーランスや個人事業主にとって、所得に連動して増え続ける国民健康保険料は大きな負担です。
しかし、マイクロ法人を設立すれば、この社会保険料を戦略的にコントロールすることが可能になります。

法人の役員は、健康保険と厚生年金保険(社会保険)に加入する義務があります。
社会保険料は、役員報酬の金額(標準報酬月額)に基づいて決まります。
つまり、自身の役員報酬を意図的に低く設定することで、社会保険料の負担を最小限に抑えることができるのです。

例えば、役員報酬を月額5万円程度に設定すれば、社会保険料の負担は月々1万円台に収まるケースが多く、高額になりがちな国民健康保険料と国民年金保険料の合計額よりも大幅に安くなる可能性があります。
また、厚生年金に加入することで、将来受け取れる年金額が国民年金のみの場合よりも手厚くなるというメリットもあります。

メリット4 消費税の免税期間を延長できる可能性

個人事業主で課税売上高が1,000万円を超えると、原則としてその2年後から消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
この課税事業者になるタイミングでマイクロ法人を設立すると、法人として新たに事業を開始したとみなされるため、設立から最大2年間、消費税の免税事業者でいられる可能性があります

個人事業主としての免税期間と、法人としての免税期間を合わせることで、納税義務を先延ばしにできる期間が生まれます。
ただし、2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)には注意が必要です。
取引先との関係で設立初年度から適格請求書発行事業者として登録する場合、課税事業者を選択することになるため、この免税メリットは享受できません。
ご自身の事業モデルに合わせて検討する必要があります。

メリット5 社会的信用度の向上

個人事業主と比べて、「株式会社」という法人格を持つことで、社会的な信用度は格段に向上します。
これは、事業運営において様々な面で有利に働きます。

  • 取引先の拡大:企業によっては、取引相手を法人のみに限定している場合があります。法人化することで、こうした企業とも取引できる可能性が広がります。
  • 金融機関からの融資:法人は会計処理が厳格であるため、事業の透明性が高いと評価されます。これにより、金融機関からの融資審査が通りやすくなる傾向があります。
  • 人材採用:求人募集を行う際、個人事業主よりも株式会社の方が応募者からの信頼を得やすく、優秀な人材を確保しやすくなります。

特にBtoB(法人向け)ビジネスを展開している場合、法人格の有無がビジネスチャンスに直結することも少なくありません。

知っておくべき3つのデメリット

マイクロ法人には多くのメリットがある一方で、無視できないデメリットも存在します。
特に、コスト面と事務手続きの面での負担増は、設立前に必ず理解しておくべき重要なポイントです。

メリットがデメリットを上回るかどうかを冷静に見極めましょう。

デメリット1 設立費用と維持コストが発生する

個人事業主は開業届を提出するだけで事業を始められますが、株式会社の設立には費用がかかります。
専門家に依頼せず自分で手続きを行った場合でも、以下のような法定費用が必要です。

項目費用(電子定款の場合)備考
定款認証手数料約3万円~5万円公証役場で定款の認証を受けるための手数料
登録免許税最低15万円資本金の額の0.7%(最低15万円)
その他数千円登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の取得費用など
合計約20万円~

さらに、設立後も法人を維持するためのランニングコストが発生します。
後述する法人住民税の均等割や、税理士への顧問料、社会保険料の会社負担分など、事業の利益とは関係なく支払いが必要なコストがあることを念頭に置かなければなりません。

デメリット2 経理や事務の負担が増える

法人の経理処理は、個人事業主の確定申告とは比較にならないほど複雑で厳格です。
会計は複式簿記で行う必要があり、年に一度の決算では貸借対照表や損益計算書などの決算書類を作成し、法人税の申告を行わなければなりません。
これらの書類作成は専門知識を要するため、多くの場合、税理士に依頼することになります。

その他にも、以下のような個人事業主にはない事務手続きが発生します。

  • 社会保険の加入手続き、毎月の保険料の計算と納付
  • 役員報酬の源泉徴収と年末調整
  • 役員の任期満了に伴う役員変更登記(最低10年に一度は必要)
  • 株主総会の開催と議事録の作成

これらの煩雑な事務手続きは、本業に集中したい事業主にとって大きな負担となる可能性があります。

デメリット3 赤字でも法人住民税の均等割がかかる

個人事業主の場合、事業が赤字であれば所得税や住民税はかかりません。
しかし、法人はたとえ事業が赤字で利益がゼロだったとしても、納税義務が免除されるわけではありません。

法人は、法人住民税の「均等割」という税金を、事業所の所在する自治体に対して毎年支払う義務があります
この均等割の金額は、資本金の額や従業員数によって異なりますが、最も小規模な法人であっても最低で年間約7万円がかかります。
これは法人を存続させる限り発生し続ける固定費であり、売上が不安定な時期には経営の重荷となる可能性があるため、十分な注意が必要です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

実践!マイクロ法人(株式会社)の作り方完全ガイド7ステップ

マイクロ法人のメリットを理解したところで、いよいよ株式会社設立の具体的な手順を見ていきましょう。

一見複雑に思えるかもしれませんが、一つひとつのステップを丁寧に進めれば、個人でも十分に設立手続きは可能です。

ここでは、マイクロ法人(株式会社)を設立するための全7ステップを、初心者にも分かりやすく完全ガイドします。

ステップ1 会社の基本事項を決定する

法人設立の第一歩は、会社の骨格となる基本事項を決めることです。
これらは定款に記載する重要な情報であり、登記申請の基礎となります。

後から変更するには手間と費用がかかるため、この段階で慎重に検討しましょう。

最低限決めておくべき基本事項は以下の通りです。

項目決定内容と注意点
商号(会社名)会社の顔となる名前です。「株式会社」を名前の前か後ろに必ず入れます(例:株式会社〇〇、〇〇株式会社)。
同一の本店所在地に同じ商号の会社は登記できません。
法務局のオンラインシステムで類似商号の調査が可能です。
本店所在地会社の住所です。
自宅や賃貸オフィス、バーチャルオフィスなどが選択肢となります。
賃貸物件の場合は、法人登記が可能か規約を必ず確認してください。
事業目的その会社がどのような事業を行うかを具体的に記載します。
詳細は次のステップで解説しますが、将来的に行う可能性のある事業も入れておくと良いでしょう。
資本金の額会社設立時の元手となる資金です。
法律上は1円から設立可能ですが、会社の信用度や初期費用を考慮し、10万円〜100万円程度で設定するのが一般的です。
発起人資本金を出資する人(設立者)です。
マイクロ法人の場合は、ご自身一人が発起人となるケースがほとんどです。
役員構成会社の経営を行う取締役などを決定します。
一人で設立する場合、自分自身が代表取締役となります。
事業年度(決算月)会社の会計期間を決定します。
自由に設定できますが、個人事業主の繁忙期を避けたり、消費税の免税期間を最大限活用できる月を選んだりするのが賢明です。

ステップ2 事業目的を決定する

事業目的は、定款に記載し、登記される非常に重要な項目です。

誰が見ても何をしている会社か分かるように、明確かつ具体的に記載する必要があります。

許認可が必要な事業を行う場合は、その許認可が下りるための特定の文言を入れなければならないケースもあるため、事前に管轄の行政庁に確認しましょう。

ポイントは、現在行っている事業だけでなく、将来的に展開する可能性のある事業も幅広く記載しておくことです。

後から事業目的を追加するには、登記変更の手続きが必要となり、登録免許税(3万円)がかかってしまいます。

最後に「前各号に附帯又は関連する一切の事業」という一文(バスケット条項)を加えておくと、事業目的の範囲を広く解釈できるようになり、柔軟な事業展開が可能になります。

ステップ3 定款を作成し認証を受ける

定款(ていかん)とは、「会社の憲法」とも呼ばれる、会社の基本的なルールを定めた書類です。

ステップ1と2で決めた事項を基に作成します。定款には必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」や、定めがあれば記載する「相対的記載事項」などがあります。

作成した定款は、公証役場で公証人に内容が正当であることを証明してもらう「認証」という手続きが必要です。
この認証には、紙の定款と電子定款の2つの方法があります。

  • 紙の定款:作成した定款を印刷し、公証役場で認証を受けます。この際、収入印紙代として4万円が必要です。
  • 電子定款:PDF化した定款に電子署名を行い、オンラインで認証を受けます。電子定款の場合、紙の定款で必要だった収入印紙代4万円が不要になるため、設立費用を抑えたいマイクロ法人にはこちらの方法が断然おすすめです。

電子定款の作成にはマイナンバーカードやICカードリーダーライタなどが必要になりますが、費用削減効果が大きいため、ぜひ検討してください。

ステップ4 資本金を払い込む

定款の認証が完了したら、次に資本金を払い込みます。
この時点ではまだ法人口座は開設できないため、発起人個人の銀行口座に、定款で定めた資本金額を振り込みます

注意点として、口座の残高を資本金とするのではなく、必ず「振り込む」という行為が必要です。

例えば、発起人Aさんが資本金50万円を出す場合、Aさんの個人口座にAさん自身の名義で50万円を振り込みます。
この振込記録が、資本金が確かに払い込まれたことの証明になります。

払い込みが完了したら、以下の3点を準備し、「払込証明書」を作成します。

  1. 通帳の表紙のコピー
  2. 通帳の1ページ目(口座名義人や口座番号が記載されているページ)のコピー
  3. 資本金の振込が記帳されたページのコピー

これらのコピーと、代表取締役が作成した払込証明書を綴じたものが、登記申請の際の添付書類となります。

ステップ5 法務局で設立登記を申請する

いよいよ会社の設立登記申請です。申請書類を本店所在地を管轄する法務局に提出した日が「会社設立日」となります。

登記申請には、多くの書類が必要となるため、漏れがないように準備しましょう。

主な必要書類は以下の通りです。

  • 登記申請書
  • 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付。株式会社は最低15万円)
  • 認証済みの定款の謄本
  • 発起人の決定書
  • 取締役の就任承諾書
  • 代表取締役の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
  • 資本金の払込証明書
  • 印鑑届書(会社の実印を登録するための書類)

申請方法は、法務局の窓口へ持参するほか、郵送やオンライン(登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと」)でも可能です。

申請後、1週間から10日ほどで登記が完了し、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や印鑑カードが取得できるようになります。

ステップ6 税務署へ法人設立届出書などを提出する

登記が完了したら、会社が設立されたことを税務署や都道府県、市町村に届け出る必要があります。
特に税務署への届出は、節税に大きく関わる「青色申告」の承認を受けるために非常に重要です。

提出期限が短いものもあるため、登記完了後、速やかに行いましょう。

提出書類提出先提出期限
法人設立届出書税務署、都道府県税事務所、市町村役場設立後2ヶ月以内(都道府県・市町村により異なる場合あり)
青色申告の承認申請書税務署設立後3ヶ月を経過した日と第1期事業年度終了日のいずれか早い日の前日まで
給与支払事務所等の開設届出書税務署給与支払事務所の開設から1ヶ月以内
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書税務署適用を受けたい月の前月末まで

特に「青色申告の承認申請書」は、提出が遅れると初年度に青色申告の特典(欠損金の繰越控除など)が受けられなくなるため、設立届出書と同時に提出するのが確実です。

ステップ7 年金事務所へ社会保険の加入手続きを行う

最後のステップは、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きです。

法人の場合、たとえ社長一人だけの会社であっても、社会保険への加入は法律で義務付けられています

個人事業主の国民健康保険・国民年金とは切り替えの手続きが必要になります。

手続きは、本店所在地を管轄する年金事務所で行います。

提出書類は以下の通りです。

  • 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
  • (配偶者などを扶養に入れる場合)健康保険 被扶養者(異動)届

提出期限は、法人設立(登記)から5日以内と非常に短いため、登記が完了したらすぐに準備に取り掛かる必要があります。
この手続きを終えれば、晴れて健康保険証が発行されます。

以上で、マイクロ法人設立の一連の手続きは完了です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

年収の壁を乗り越えるマイクロ法人(株式会社)活用術

個人事業主として事業が軌道に乗ってくると、必ず意識するのが「年収の壁」です。
これは、所得が増えるにつれて税金や社会保険料の負担が急激に重くなるポイントを指します。
この壁を賢く乗り越えるための最も有効な戦略が、マイクロ法人(株式会社)の活用です。

ここでは、個人事業主とマイクロ法人を組み合わせる「二刀流」によって、いかにして手取りを最大化できるのか、具体的な方法と年収別のシミュレーションを交えて徹底的に解説します。

個人事業主との二刀流が最適な理由

マイクロ法人を設立する際、個人事業主を廃業して法人に一本化するのではなく、個人事業主とマイクロ法人の両方を並行して運営する「二刀流」が最も節税効果を高めます。
その理由は、所得の分散と社会保険料の最適化という2つの大きなメリットを同時に享受できるからです。

まず、所得を個人事業の「事業所得」とマイクロ法人の「給与所得(役員報酬)」に分散させることで、所得税の累進課税を効果的に緩和できます。

日本の所得税は、所得が高くなるほど税率が上がる仕組みです。

所得を2つに分けることで、それぞれに適用される税率を低く抑え、トータルでの納税額を減らすことが可能になります。

そして、二刀流の最大のメリットが社会保険料の最適化です。個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入しますが、これらは所得に応じて保険料が上昇し、上限額も比較的高く設定されています。

一方、マイクロ法人を設立して役員になれば、法人で健康保険と厚生年金保険に加入できます。
この際、法人から受け取る役員報酬を社会保険料が最も低くなる金額に設定することで、個人事業で高額な所得を得ていても、社会保険料の負担を最小限に抑えることができるのです。
この仕組みこそが、年収の壁を突破するための鍵となります。

役員報酬はいくらに設定すべきか

マイクロ法人を活用した社会保険料の最適化において、最も重要なのが役員報酬の金額設定です。

結論から言うと、社会保険料の負担を最小限に抑えるためには、役員報酬を月額45,000円〜60,000円程度に設定するのが一般的です。

健康保険料や厚生年金保険料は「標準報酬月額」という基準に基づいて決まります。
この標準報酬月額の等級が最も低い範囲に役員報酬を収めることで、保険料を最低額にできます。

例えば、役員報酬を月額5万円に設定した場合、社会保険料の自己負担額は月々1万円台前半に抑えることが可能です。
これは、所得によっては月々8万円以上になることもある国民健康保険料と比較すると、劇的な負担軽減となります。

ただし、注意点もあります。まず、役員報酬を低く設定すると、将来受け取れる厚生年金の額も少なくなります。
そのため、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などを活用し、自身で老後資金を準備することが重要です。
また、業務実態とかけ離れた不当に低い役員報酬は、税務調査で否認されるリスクもゼロではありません。

事業内容や役員としての貢献度を考慮し、社会通念上、妥当と判断される範囲で設定することが求められます。

年収別シミュレーション 個人事業主との比較

それでは、実際にマイクロ法人を活用した二刀流によって、手取り額がどのくらい変わるのかをシミュレーションしてみましょう。

ここでは、個人事業主が直面しやすい「年収800万円」と「年収1000万円」の壁を例に比較します。

※以下のシミュレーションは、東京都内在住、40歳未満、配偶者なし、経費率30%と仮定した簡易的な計算例です。実際の金額は所得控除や家族構成、お住まいの自治体によって変動します。

年収800万円の壁

個人事業主として所得(売上から経費を引いた利益)が800万円を超えると、所得税率が23%になり、住民税と合わせると33%の税率が課されます。
さらに国民健康保険料も上限に近づき、負担感が一気に増します。
この状況をマイクロ法人活用でどう変えられるか見てみましょう。

項目個人事業主のみマイクロ法人+個人事業主
所得の内訳事業所得:800万円役員報酬:60万円
事業所得:740万円
所得税・住民税約205万円約185万円
社会保険料約120万円
(国保+国民年金)
約36万円
(社保+国民年金)
合計負担額約325万円約221万円
手取り額約475万円約579万円

シミュレーションの結果、マイクロ法人を活用することで、年間約104万円も手取り額が増えることがわかります。
これは主に、社会保険料が約84万円も削減できていることが大きな要因です。
所得税・住民税の節税効果と合わせ、非常に大きなインパクトがあると言えるでしょう。

年収1000万円の壁

所得が1000万円を超えると、個人事業主の所得税率は33%に跳ね上がります(住民税と合わせて43%)。
このレベルになると、マイクロ法人活用のメリットはさらに顕著になります。
また、売上が1000万円を超えると消費税の課税事業者になるという、別の大きな壁も存在します。

項目個人事業主のみマイクロ法人+個人事業主
所得の内訳事業所得:1000万円役員報酬:60万円
事業所得:940万円
所得税・住民税約290万円約260万円
社会保険料約120万円
(国保+国民年金)
約36万円
(社保+国民年金)
合計負担額約410万円約296万円
手取り額約590万円約704万円

所得1000万円のケースでは、その差はさらに広がり、年間で約114万円もの手取り額の増加が見込めます。
高所得者ほど累進課税の影響が大きくなるため、所得分散による節税効果と、社会保険料の最適化という二つのメリットが最大限に発揮されるのです。
事業が順調に成長し、高所得が見込まれる個人事業主にとって、マイクロ法人の設立は必須の戦略と言っても過言ではありません。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

マイクロ法人設立に関するよくある質問

マイクロ法人の設立を検討する際、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式で解説します。

設立のタイミングや話題のインボイス制度との関係、専門家への依頼の必要性など、気になるポイントを解消していきましょう。

設立に最適なタイミングはいつか

マイクロ法人設立の最適なタイミングは、事業の状況や目指す目標によって異なりますが、一般的に以下の3つのタイミングが目安とされています。

1. 所得が800万円を超えたとき
個人事業主の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど税率が高くなります。
課税所得が800万円を超えると、所得税・住民税・事業税を合わせた実効税率が法人税率を上回る可能性が高くなります。
このタイミングで法人化し、役員報酬を設定することで、給与所得控除を活用しつつ、法人と個人に所得を分散させ、トータルの税負担を軽減できる可能性があります。

2. 消費税の課税事業者になるタイミング
個人事業主で課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
このタイミングでマイクロ法人を設立すると、原則として設立から最大2年間は消費税の免税事業者となることができます。
これにより、消費税の負担を先送りにする効果が期待できます。

3. 社会保険料の負担が大きくなったとき
個人事業主が加入する国民健康保険料は、所得に応じて上限なく増えていきます。
一方で、法人の役員として加入する健康保険(協会けんぽなど)の保険料には上限(標準報酬月額の上限)が設けられています。
所得が増え、国民健康保険料の負担が重くなったと感じるタイミングは、社会保険料を最適化できるマイクロ法人設立を検討する良い機会です。

インボイス制度との関連性

2023年10月から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、マイクロ法人設立の判断に大きな影響を与えています。

個人事業主が免税事業者のままでいると、課税事業者である取引先が仕入税額控除を受けられなくなるため、取引の見直しや値下げを要求される可能性があります。
これを避けるために適格請求書発行事業者になると、売上1,000万円以下でも消費税を納める義務が生じます。

ここでマイクロ法人を活用する戦略が注目されています。

具体的には、個人事業主として適格請求書発行事業者になり消費税を納めつつ、別に設立したマイクロ法人を免税事業者のままにしておく「二刀流」という方法です。

例えば、インボイス発行が必要なBtoB取引は個人事業で行い、インボイスが不要なBtoC取引(一般消費者向けの事業など)をマイクロ法人で行うことで、法人分の売上にかかる消費税の納税を免れることができます。

ただし、このスキームを適用するには、事業内容を明確に分ける必要があります。

インボイス制度への対応は複雑なため、自身の取引状況をよく確認し、最適な方法を選択することが重要です。

税理士に依頼する必要はあるか

マイクロ法人の設立手続きや日々の経理、決算申告をすべて自分で行うことも不可能ではありません。
しかし、特に節税効果を最大化したい場合や、本業に集中したい場合には、税理士への依頼を強くおすすめします。

税理士に依頼するメリットとデメリットは以下の通りです。

  • メリット:
    • 設立手続きから会計処理、決算申告まで正確かつスムーズに進められる。
    • 役員報酬の最適な金額設定や社会保険料のシミュレーションなど、専門的な節税アドバイスを受けられる。
    • 税務調査が入った場合にも安心して対応を任せられる。
    • 経理や税務の煩雑な作業から解放され、本業に集中できる。
  • デメリット:
    • 顧問料や決算料などの費用が発生する。

特に、個人事業主との二刀流で社会保険料や税負担の最適化を図るというマイクロ法人のメリットを最大限に引き出すには、高度な専門知識が不可欠です。

目先の費用を惜しんだ結果、かえって納税額が増えたり、追徴課税のリスクを負ったりする可能性も考えられます。

税理士に依頼する場合の費用相場は、依頼する業務範囲によって異なります。

以下に一般的な目安を示します。

依頼内容費用相場備考
設立手続き代行5万円~15万円司法書士への登記費用は別途の場合が多い。
月次顧問契約月額1万円~3万円記帳代行を含むか、面談頻度などで変動。
決算申告のみ10万円~20万円年間の取引量や事業規模によって変動。

まずは無料相談などを活用し、複数の税理士と話をして、自分の事業内容や目標を理解してくれる信頼できるパートナーを見つけることが成功の鍵となります。

まとめ

この記事では、個人事業主がマイクロ法人として株式会社を設立する方法と、そのメリット・デメリットについて詳しく解説しました。

マイクロ法人を設立することで、所得税と法人税の税率差や給与所得控除を活用した節税、そして社会保険料の負担を最適化することが可能になります。
特に、個人事業主としての事業と法人を両立させる「二刀流」は、手取り収入を最大化する上で非常に有効な戦略です。

もちろん、設立費用や維持コスト、経理事務の負担増加といったデメリットも存在します。
しかし、年収が800万円や1000万円の壁を超え、税金や社会保険料の負担が重くなってきた個人事業主にとって、マイクロ法人設立によるメリットはデメリットを上回るケースが多くあります。

マイクロ法人設立の成功の鍵は、ご自身の事業規模や所得に合わせた適切な役員報酬設定にあります。

本記事で紹介した設立の7ステップや年収別のシミュレーションを参考に、まずはご自身の状況でどれくらいの効果が見込めるのかを具体的に試算してみることをお勧めします。

マイクロ法人は、事業をさらに成長させ、将来の資産形成を加速させるための強力なツールです。

設立手続きや税務に関して不安な点があれば、税理士などの専門家に相談しながら、賢く法人化への第一歩を踏み出しましょう。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順